大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(く)13号 決定

申立人 細川清茂

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は申立人作成名義の異議申立棄却決定に対する即時抗告申立書記載のとおりで、その要旨は、申立人は昭和三十四年四月二十七日横浜地方裁判所において関税法違反罪等により懲役四年、罰金、第一事実につき十万円、第二事実につき二万円、第三事実につき三万円、第四事実につき十万円、第六事実につき十万円、第七事実につき五万円、第八の一の事実につき十万円、第八の二の事実につき十万円、第九の事実につき三百万円に処し、罰金不完納の場合金四千円を一日に換算した期間労役場に留置する旨の判決を受け、昭和三十四年五月十五日から懲役四年の刑を執行されていたものであるが、昭和三十五年五月三十日右刑の執行を停止し、第九の罰金三百万円の換刑処分として労役場留置七百五十日の執行に切り替えられ、昭和三十五年九月十三日右労役場留置の執行を停止し、第一、第二、第三、第四、第六、第七、第八の一、第八の二の罰金の換刑処分たる労役場留置の執行を受け終り、再び昭和三十六年二月九日から罰金三百万円の残期間の労役場留置の執行を受けているものである。右第九の罰金三百万円の労役場留置七百五十日は、たとえ併科された罰金刑の一部であるとはいえ、刑法第十八条第一項により、二年を超えてはならないので、昭和三十五年九月十二日横浜地方裁判所に執行に関し異議申立をなしたところ、昭和三十六年二月十六日同裁判所は異議申立を棄却する決定をなし、同年二月十九日これが送達を受けたが、右棄却決定は納得し難いので、本件抗告に及んだ次第であるというに在る。

よつて記録を精査するに、申立人が昭和三十四年四月二十七日横浜地方裁判所に於て関税法違反罪等により懲役四年、第一乃至第四、第六、第七、第八の一、二、第九の事実につき順次罰金十万円、二万円、三万円、十万円、十万円、五万円、十万円、十万円、三百万円、罰金不完納の場合金四千円一日の割合により労役場留置の判決を受けたこと、昭和三十四年五月十五日から右懲役刑の執行を受け、昭和三十五年五月三十日右懲役刑の執行を停止し、右罰金刑の換刑処分たる労役場留置を執行し、第一乃至第四、第六、第七、第八の一、二の換刑処分たる労役場留置の執行を終り、昭和三十六年二月九日から第九の罰金三百万円、労役場留置七百五十日の残期間の執行を受けていること、申立人が右第九の罰金三百万円労役場留置七百五十日の執行に関し異議の申立をなし、原裁判所に於てこれが申立を棄却されたことは、所論が詳細摘示するとおりである。刑法第十八条第三項には、罰金を併科した場合は、労役場留置期間は三年を超えてはならぬ旨の規定があるも、同条第一項には、罰金不完納の場合一日以上二年以下労役場に留置すとあるから、各罰金刑の労役場留置は、各罰金刑一々につき二年を超えてはならないし、これを併科する場合は全体として三年を超えてはならないと解すべきであるから、少くとも、前記第九の罰金三百万円労役場留置七百五十日の判決部分は誤謬であるといわなければならない。然し、検察官は確定判決が当然無効であるか執行不能である場合の外確定判決に基いてこれを執行しなければならないところ、右確定判決の誤謬部分は、当然無効であるともいえないし、また執行不能であるともいえないから、検察官のなした右罰金三百万円の労役場留置七百五十日の執行は不当であるということはできない。申立人としては、他の手続により確定判決の変更を待つ外はない。従つて、これと同趣旨の理由により本件執行異議の申立を棄却した原決定は相当で、これに対する本件即時抗告も理由がないものといわなければならない。よつて刑事訴訟法第四百二十六条第一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田要治 滝沢太助 鈴木良一)

(参考 原決定の一部は、次のとおりである。)

凡そ確定判決に誤がある場合その誤は他の手続により是正されることあるは格別、その誤のため確定判決が当然無効又は執行不能とはならない限り、執行機関は確定判決の執行力によりこれを実現すべく執行するを要するのであるから、その確定判決に基く執行を目して違法ということはできないものであり、従つて検察官の執行処分に対する異議申立の理由とすることはできないものと解すべきところ、刑法第一八条第三項の適用については前記確定判決のように併科された数個の罰金の不完納の場合における労役場留置期間が全部を通じて三年を超えない限り、その一つの罰金の不完納の場合における労役場留置期間が二年を超えても違法でないとする見解が成立するとともに、一方申立人の主張するような併科された数個の罰金の不完納の場合における労役場留置期間は全部を通じて三年を超えてはならないと同時に、併科された各罰金は、併科された罰金刑の一部であるとはいいながら、それ自体は一つのものであるから他の事実に対する罰金刑とは関係なく、その不完納の場合における労役場留置期間は二年を超えることはできないとする見解も成立し得るのであつて、右申立人の主張する見解によればもとより本件確定判決中、第九の事実についての罰金三、〇〇〇、〇〇〇円の不完納の場合における労役場留置期間は一日金四、〇〇〇円の割合による七五〇日であり、二年を超えているから本件確定判決は、この点において相当でないといわねばならないのであるが、すでに判決の確定している現在においては、他の手続により是正されることあるは格別、本件確定判決がこれにより当然無効または執行不能となるものとは到底認められないのであるから、本件確定判決の執行力を否定することはできないのである。されば検察官が本件確定判決の執行力を実現するためになした本件執行処分を違法ということはできないものであり申立人の本件異議申立は既にこの点において理由がないからこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 吉田作穂 新海順次 惣脇春雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例